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大阪家庭裁判所 昭和51年(家)2470号 審判

申立人 林真知子(仮名)

主文

申立人の氏「林」を「安田」に変更することを許可する。

理由

一  申立人は、主文同旨の審判を求めた。

二  申立書添付の各戸籍謄本その他の書類の各記載、昭和四六年(家イ)第二五二四号夫婦関係調整調停事件記録、および当裁判所調査官の調査報告書を総合すれば、次の事実が認められる。

(1)  申立人は、昭和二六年一月二五日頃安田昇と挙式して夫婦となり、同年八月二〇日夫の氏を称する婚姻をして長女清子(昭和二六年一〇月七日生)、長男雅夫(昭和二九年七月九日生)の二児を儲けたが、昭和四六年一二月一五日双方は当裁判所において長男雅夫の親権者を申立人と定め調停離婚し、その結果申立人は婚姻前の氏である「林」に復した。

(2)  申立人は、昭和二一年五月一〇日以来○○市に居住し、婚姻後は同市内の肩書住所に居住し、離婚後も同所において前記二児と同居してきたが、長女清子は昭和五〇年一一月一〇日夫の氏を称する婚姻をして別居するまで父の氏を称しており長男雅夫も氏の変更を希望せず父の戸籍に在籍したまま「安田」で大学三回生として通学中であるので、申立人も同一世帯内で母子間に氏が異ることの不便や、社会生活上の不利益を避ける為離婚後も婚姻中の氏を使用してきた。

(3)  申立人は、昭和三五年一二月二七日設立された××××製品の製造加工並びに販売等を目的とする「○○××××××株式会社」(現在の本店所在地大阪市○区×町○丁目○番地、東京都内に一出張所、西宮市内に従業員約七〇名の工場資本金一、五〇〇万円)にその前身の個人商店時代から引続き勤務し、昭和四四年頃、総務部長に、同四六年一〇月一八日取締役に就任し、百貨店との間の製品の納入契約などの営業活動も「安田」姓でしてきた。また、申立人は昭和四五年一一月一二日設立された資本金五〇〇万円で不動産の賃貸、管理等を目的とする「○○△△株式会社」(本店所在地は前記会社のそれと同じ)の取締役に翌四六年一〇月一八日就任した。そうして申立人は、現在まで両会社内で前記地位にあつて、離婚後も取引上の混乱や不利益を避けるため、離婚前と同一の氏を使用している。

(4)  申立人の前夫安田昇は、かねて吉田香と関係を持ち、同女との間に三女まで儲けてこれを認知し、申立人の許には昭和三一年五月以来全く帰宅しなくなつて事実上の離婚状態が続き、前記のとおり申立人とは昭和四六年一二月一五日調停離婚に至つた(なお翌四七年五月一三日安田昇と吉田香は正式に婚姻)が、申立人とは別の会社に勤務していたもので申立人の前記会社には関係してなく、申立人が「安田」の氏を使用したとしても昇の経済生活面で支障はない。

三  ところで、氏の変更は「やむをえない事由」ある場合には、認められるところ、本件にあつては、申立人は、結婚以来肩書住所に居住し約二五年間にわたつて「安田」を称し、これが個人の呼称として社会的にも或程度定着したといいうること、申立人は婚姻中から営利会社の取締役として広く経済活動を行い生計を維持してきたもので、離婚により復氏したことが申立人に不当な不利益を強いるものとなること、申立人の長男の利益のためにも改氏するのが適切であること、申立人の改氏により離婚した前夫への支障は考えられないことのほか昭和五一年六月一五日法律第六六号による民法第七六七条第二項の改正の趣旨をも併せ考えれば、申立人については、婚姻中の氏「安田」に改氏すべきやむをえない事由があると認められる。

よつて戸籍法第一〇七条第一項により主文のとおり審判する。

(家事審判官 三村健治)

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